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福岡地方裁判所 昭和47年(む)466号 決定

主文

福岡地方検察庁検察官大本正一が、昭和四七年五月四日、西福岡警察署に赴いた申立人に対しなした福岡地方検察庁で検察官の接見指定書を受け取りこれを持参しない限り申立人と被疑者らとの接見を拒否する処分はこれを取り消す。

申立人のその余の申立を棄却する。

理由

一、本件申立の趣旨、理由は、準抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

二、当裁判所の判断

(一)  当裁判所の事実調の結果によれば、

(1)  被疑者らは前記各被疑事件について昭和四七年四月二八日逮捕され、引き続き同年五月一日西福岡警察署代用監獄に勾留され、かつ刑事訴訟法八一条により同法三九条一項に規定する者以外の者との接見等を公訴提起に至るまでの間禁止されたこと、

(2)  福岡地方検察庁検事田中恒雄は前記各被疑事件について同年五月一日付で別紙のような「接見等について」と題する書面を発したこと、

(3)  申立人は昭和四七年五月四日午後三時頃西福岡警察署に赴き、福岡地方検察庁検察官大本正一に対し、電話で右警察署に勾留中の被疑者らの弁護人となろうとして被疑者らと接見する申し入れをしたところ、同日午後三時三〇分頃、同検察官は申立人宛に電話で捜査状況からみて同日午後四時三〇分頃から接見は可能であるが、被疑者らについてはいずれも接見禁止命令がなされているので、被疑者らとの接見については、その具体的指定を書面(以下具体的指定書という)によつて行ない、日時、時間、場所等を指定するから、これを福岡地方検察庁で受け取つたうえ接見されたいと述べ、同検察官において具体的指定書を準備していた。しかし、申立人は右具体的指定書を貰らいに行かず、同日午後四時三〇分頃、西福岡警察署に赴き、被疑者らとの接見を求めたが、右検察官の発する具体的指定書を所持していないことを理由に、同署司法警察員境毅によつて、接見を拒否され、被疑者らと接見をすることができなかつたこと

が認められる。

(二)(1)  刑事訴訟法三九条の法意によれば、被疑者と弁護人となろうとする者との接見は、原則として自由であつて、例外的に検察官らは被疑者の身柄を利用した現実の捜査をするため必要がある場合に限つて、接見の日時、場所及び時間を指定することができると解されなければならない。従つて、検察官らは現実の捜査のための必要がない限り、可及的速かに接見させなければならないのであつて、現実の捜査の必要があるときに限り、接見の日時、場所、時間について可及的速やかに具体的指定を与えて始めてその接見を制限(時間的に調整)することができると解するのが相当である。

(2)  しかるに、前記事実関係によれば、検察官は折角西福岡警察署に臨んで接見を求めている申立人に対し、検察庁まで具体的指定書を受け取りにくることを求め、この指定書を西福岡警察署に持参して行かない限り接見を拒否する処分をしたことが認められ、その処分は弁護人に対し具体的指定書の交付を受けてこれを呈示するという新たな手続の履践義務を課するもので、相当の時間と経費(西福岡警察署と検察庁との距離は約四キロメートルある。)の負担をも余儀なくさせることになるから、捜査官に許された指定権の行使に関する裁量権の範囲を逸脱した違法の処分と認めるのが相当である。

(三)  警察官は、申立人からの接見の申し入れを五月四日午後三時頃電話で受けるや、担当検察官において遅滞なく捜査状況を警察と打ち合せたうえ、同日午後三時三〇分頃申立人に対し希望どおり同日午後四時三〇分頃から接見が可能である旨電話連絡し、具体的指定書を準備して申立人が受け取りに来るのを待つていたのに、申立人がこれを受け取りに来られない事情の有無についての説明もなく、受け取りに来ないまま西福岡警察署に赴き接見を求めたため、事実上接見ができなかつたものであつて、担当検察官において接見拒否の処分をしたものでなく、申立人の側において接見の指定を受けなかつただけである旨主張するが、前項説示の理由よりして、申立人には担当検察官の指示に応じて具体的指定書を検察庁まで受け取りに行かなければならない義務はないといえるので申立人が検察官の用意していた具体的指定書を受け取らないことに落度があるとは認め難く、却つて検察官主張のように担当検察官は申立人に対し四日午後四時三〇分頃から接見が可能である旨電話連絡をしているのであるから、わざわざ具体的指定書を受け取りに来させなくとも、当時電話などの伝達方法により接見の具体的指定をすることができたものと推断されるし、電話での指示伝達でもその聴取書作成等の方法で正確性を保持して、接見の過誤を防ぐことも容易にできるというも過言でなかろうから、検察官の右主張は理由がない。つぎに検察官は、具体的指定をするに当つて、弁護人になろうとする者が果して選任権者の依頼に基づくものかどうか、また被疑者らに弁護人になろうとする者を選任する意思があるかどうかを確認する義務があるので、書面による具体的指定をする必要があるように主張するが、少くとも本件の場合については担当検察官においてその点の確認義務があつたとは認め難いし、仮りに確認義務があつたとしても、その故をもつて具体的指定の方法が書面でなければならないとはいえないこと明らかである。また検察官は、本件兇器準備集合等被疑事件はいわゆる反中核派の学生と革マル派の学生との紛争の中で発生した事件であつて、本件被疑者四名はいずれも革マル派に所属する者であるところ、申立人はその紛争の相手方であつた反中核派側の逮捕者について既に弁護人に就任して勾留理由開示の請求をするなどの弁護活動をしているので、申立人が本件被疑者らの弁護人となろうとすることは利益相反の弁護活動をすることの疑いが生じているから、果して申立人がこの利益相反の点を承知の上で弁護活動をする意思があるのかどうかを正す必要もあつて、申立人に対し検察庁まで具体的指定書を受け取りにくることを求めた旨主張するが、たとえ右主張の事情があつたとしても、申立人において本件被疑者らと接見しようとすることが、直ちに利益相反行為に該るとは到底認め難く(相互に加害者対被害者の関係にある被疑者双方の弁護人に就任しても、その弁護活動の実体が双方の利害相反に該らない活動をするに止まるとき、例えば裁判所に対して双方の被疑者のための勾留理由開示の請求をするが如きは、未だ利益相反行為とはいえず、その弁護活動は当然許容されるものといえよう)担当検察官がその接見の具体的指定の処分をするに当つて、この点の調査介入をしようとするのは相当でないことも明らかであるから、検察官の右主張もまた理由がない。

(四)  申立人は、本件被疑者らに対する接見等について、検察官が西福岡警察署長に対しいわゆる一般的指定をしていた旨主張するが、右主張を肯認すべき証拠はない。即ち、前記(一)の(2)項で認定したように検察官が本件被疑者らの勾留されている同警察署長宛に「接見等について」と題する書面を交付しているが、右書面の文意をもつてこれを直ちにいわゆる一般的指定と解するのは困難であろう。また申立人は、西福岡警察署司法警察員境毅が五月四日申立人に対して接見拒否の処分をしたから、これを取り消さるべきである旨主張し、前記二の(3)項で認定したように同署司法警察員境毅が右主張のごとく申立人の接見を拒否した事実は認められるが、右は担当検察官の処分を執行したものであつて、同司法警察員の固有の権限に基づく処分とは認められないので、右主張は採用できない。

(五)  よつて、本件申立は主文一項の限度では理由があるが、その余の申立は理由がないので、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により主文のとおり決定する。

(小川冝夫 池田憲義 清田嘉一)

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